『狐笛のかなた』

『狐笛のかなた』(上橋菜穂子著、理論社)を読んだ。

上橋さんの本を読むのは今回が初めてだ。『精霊の守り人』『闇の守り人』などが人気のあるのは知っていたが、読むきっかけがつかめずにいた。

『狐笛のかなた』は、野間児童文芸賞(第42回)を受賞していて、また、産経児童出版文化賞〈推薦〉に選ばれている。というのは、読んだあと、インターネットで調べてわかったこと。読む前、私は何にも知らずに、ふっと読みたくなって手を伸ばした。表紙の絵が美しい。裏表紙の、サクラの散る絵にも惹かれてしまった。

何も知らずに読んで、よかったと思う。どの本でもそうだが、前情報、いろんなことを知ってから読むと、楽しめなくなってしまうもの。特に、賞をとったと聞くと、とたんに読む気をなくしてしまう(私の場合)。まっしろな状態で、あるいは何年か後ほとぼりが冷めてから読むのが、いちばん好きな読み方だ(私の場合)。

『狐笛のかなた』は、読みながら胸がどきどきして、切なくなって、そして最後には泣いてしまった。泣くようなお話ではないのだろうが、心があったかくなって、幸せな気分で涙が出てしまった。こういうお話だとは思わなかった…古代日本を舞台にしたファンタジーという感じはあったが、戦って宝物を手に入れるといった冒険ものではまったくなかった。

もっと…なんというか…人間の心を見つめるような…人間と動物との垣根を越えた情愛というものを描いている。これは、すでに児童文学の域を超えた「文学」だと思えた。(理論社が出す児童書には、大人向けのものが多く、また、いい作品が多いので気に入っている)

いつの時代かはわからないが、昔の日本のとある国。
〈あわい〉に生まれ、使い魔として生きる野火。〈聞き耳〉の力を受け継いでしまった小夜。ただひたすらに、まっすぐに〈呪い〉の彼方へと駆けて行く二つの心の物語。(理論社のHPより)

野火は呪者に使われる狐で、小夜は不思議な力を持つ女の子だ。作者の上橋さんは、心に宿ったイメージを長い時間をかけて物語にしたという。ススキが生い茂る秋の野を必死で逃げる子狐を、思わず懐に抱いて助けてしまう少女。そのイメージから、上橋さんはずっと狐と少女の物語を描きたいと思っていたそうである。

野間児童文芸賞の受賞の言葉(HPに紹介されてあります)には、この物語の執筆に駆り立てた衝動は2つあった、とお話されている。ひとつは、自分の心を震わせる、美しく懐かしい風景を丹念に描いてみたいという思い。もうひとつは、獣に犠牲を強いることで悲しみを歌うのではなく、人の側が獣の方へ寄り添う物語をかいてみたいという思い。

また、このお話をたとえるなら、両手で小さな灯火を風から守っているようなお話、だともおっしゃっています。

読んでみたくなりますよね? ぜひ、読んでみてください。

ハリー・ポッターなどの外国のファンタジーもいいけれど、日本の昔を舞台にしたすばらしいファンタジーもたくさん出版されている。なるべく読みたいと思っているが、なかなか手が回らない。

私が読んだのは、たつみや章さんの〈月神シリーズ〉四部作。
『月神の統べる森で』『地の掟 月のまなざし』『天地のはざま』『月冠の巫王』と、外伝『裔を継ぐ者』(いずれも講談社)。

これは、縄文時代から弥生時代へと変わる時代を描いている。なるほど~こういう描き方もあるのか~うまいな~と思いながら読みました。

インターネットで調べると、『月神の統べる森で』も、野間児童文芸賞(第37回)を受賞しているんですね、今知りました(^_^;)

私がたつみやさんの作品で好きなところは、神々様の話がかかわっているところ。『水の伝説』、『夜の伝説』も読んだが、こんなふうに、今の日本人が忘れかけている、日本の神様のこと、信仰心を、身近に、ファンタジー風に描けたら…と、私の願いをそのまま作品化してくださっている。

信仰だの神様だのいうとすぐに、宗教だ、マインドコントロールだとかいわれますが、昔から日本人の生活には神様が深くかかわっているのだし、神様を敬う気持ちが薄れているから、人間が偉いのだとおごっているから、世の中ギスギスしてきているんじゃないかという気がしている。
きっとこれからもっともっと、目には見えない思い、心の部分や世界のことを描く作家が増えるだろう、増えてほしいと思う。そして、私もその中の一人になれればと願っている。

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