『「ナルニア国」への扉 C・S・ルイス』

『「ナルニア国」への扉 C・S・ルイス』(文渓堂)

名作を生んだ作家シリーズとして、J・M・バリの伝記の次に訳させていただきました。C・S・ルイスの伝記です。

映画『ライオンと魔女』が話題になっていますが、C・S・ルイスはその原作者である。
子ども向けにわかりやすく書かれてあります。

バリの人生を描いた映画『ネバーランド』のように、ルイスの人生を描いた映画ももちろんある。
『永遠の愛に生きて』(1993年作品。日本ヘラルド映画)がそれである。原題は『シャドウランズSHADOWLANDS』。

インターネットでこの映画の感想をいろいろ読んでいると、邦題がひどい、という声が結構多い。私も同感だ。なぜなら、この‘シャドウランズ(影の国)’には意味があって、映画の中でも重要な場面で出てくるし、ナルニア国シリーズにも出てくるし、なにより、ルイスの人生観にもかかわる重要な言葉なのである。

‘影の国’とは哲学者プラトンの〈洞窟〉のたとえからきている。プラトンによると、人間は生まれながら洞窟の中にいて、後ろを見ることができない囚人のようなもので、壁に映った影だけを見て育つ。だから囚人にとってこの影の世界だけが本物である。だが、本物の世界は〈影の国〉ではなく、別にある。

私たちが生きるこの世界は影にすぎず、人間が永遠に生きる本物の国は、死んだあとにゆく、神がおられる天国だと、ルイスは考えた。この世は影の国、影の国を去る〈死〉は、本物の国にいくことを意味し、悲しみではなく喜びだととらえたのだ。これは、愛する人を亡くすという経験をしたルイスの体験(この映画でも描かれている)と、キリスト教の信仰心とがあいまった、実にすばらしい到達点だと思う。

この映画はもともとテレビドラマ用に書かれた脚本がもとになっており、舞台化もされた。日本でも1991年に劇団四季が「シャドウランズ」という題で上演された。このときも「シャドウランズ」とそのままの題でいったのだから、映画も「シャドウランズ」にしてほしかったですよね、わかりにくいなら「影の国」って言葉を使えばなんとかなったのでは…。

ともかく、映画は1952年、ルイスが54歳になる年から始まっている。ルイスはオックスフォード大学の教師として活躍するかたわら、ナルニア国シリーズの作家としても名をはせていた。
独身だった彼は、この年、一人のアメリカ人女性と出会う。ルイスのファンだという37歳の、同じく作家であるジョイ・デビッドマン。美人で知的、ものおじしない大胆な性格のジョイは、ルイスに強烈な印象を与えた。
ジョイは結婚して二人の子どもがいたが、夫の飲酒、浮気に悩んでいた。ジョイがイギリスにきたのも、ルイスに相談にのってもらいたいというのが理由のひとつとしてあった。

いろいろあってジョイは夫と離婚、イギリスで新たな生活を始めるため海を渡ってくる。だが、滞在ビザの延長ができず、イギリスを離れなければならなくなり、そこでルイスと結婚をするのである。これは市民権をえてイギリスにすむことができるようにするための書類上の形式的な結婚であり、愛し合っていたからではない。事実、二人は別々に暮らしていた。

だが翌年、ジョイがガンで余命いくばくもないことが判明。ルイスはジョイをどれほど愛しているかを知るのだ。ジョイも同じ思いだった。二人は、本物の結婚(キリスト教徒としての結婚)式をあげ、一緒に暮らすことになる。58歳にして、ルイスは初めて本当の愛を知り、ジョイの死までの約3年間をともにするのである。

以上が、本当のルイスのいきさつ。
映画は、おおまか事実に沿っているが、大きな違いは2つ。ジョイには息子が二人いたが、映画では次男のダグラスしか登場しないし、ジョイは病院で息を引き取ったが、映画ではもちろん自宅で亡くなっている。

でも、そんなことはでもどうでもよくて、とにかくすばらしい映画である。とてもうまく構成されていて、俳優さんたちも見事だ。
オックスフォード、イギリスの風景が美しい。私はずっと泣きっぱなしであった。翻訳のときは、いつも客観的な目でいるが、映画になるととたんにその世界に入ってしまって、一人の観客になっている。堅物だったルイスがジョイに正直になっていくところ、せっかく愛をつかんだルイスがジョイの死に直面し、理性を失うところなど、文字だけで見ていたルイスが人間性を帯びて私に迫ってくる。

正直、ルイス役のアンソニー・ホプキンスは、私のルイスのイメージではないのだが、でも見事に演じきっている。さすがだ。

まだ観たことのない方はぜひとも観てみてください。実話ですから、よりいっそう感動がましますよ。
ナルニアシリーズ一作目『ライオンと魔女』に出てくる、あの衣装箪笥も出てきて、上手にストーリーと調和しています! このへんのところも、脚本の見事さですね。

ルイスとジョイについては、すぐ書房の『永遠の愛に生きて』(ブライアン・シブリー著、中尾セツ子訳)を読むと詳しくわかります。これはもともと『影の国よ、さようなら』というタイトルだったのが、映画公開後、このタイトルに変更され、表紙も映画のスチール写真になってました。

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